小説「殉愛」出版差止訴訟事件 「悪く書くつもり」がなくても名誉毀損は成立します。
- 2016/3/3
- 名誉毀損
名誉毀損された場合には、人格権に基づき出版などの表現行為の差し止めを求めることができます。
2014年に亡くなったタレントやしきたかじんさんの闘病生活を記した小説「殉愛」について、長女が発行元の幻冬舎(東京)に出版差し止めなどを求めた訴訟で、著者の百田尚樹氏の証人尋問が2日、東京地裁(松村徹裁判長)であった。(時事通信社 2016/03/02-18:21)
現在、出版差止めの可否が争われている裁判が、百田さんの小説の出版差止め訴訟です。
百田氏は「悪く書くつもりは全くなかった」と話し、長女の名誉を毀損(きそん)する意図を否定した。
と報道されていますが、名誉毀損は、悪く書くつもりはなくても、人の社会的評価を低下させれば成立します。
そういう意味では、名誉毀損の裁判における「悪く書くつもりは全くなかった」という言い分は、あまり意味がありません。
ただ、名誉毀損による出版の差止を求める場合には、悪く書くつもりであったかどうかは、差止めの可否に影響します。
名誉毀損による差止が認められるための要件については、北方ジャーナル事件判決(最高裁昭和61年6月11日判決)が次のとおり示しています。
出版物の頒布等の事前差止めは、このような事前抑制に該当するものであつて、とりわけ、その対象が公務員又は公職選挙の候補者に対する評価、批判等の表現行為に関するものである場合には、そのこと自体から、一般にそれが公共の利害に関する事項であるということができ、前示のような憲法二一条一項の趣旨(前記(二)参照)に照らし、その表現が私人の名誉権に優先する社会的価値を含み憲法上特に保護されるべきであることにかんがみると、当該表現行為に対する事前差止めは、原則として許されないものといわなければならない。ただ、右のような場合においても、その表現内容が真実でなく、又はそれが専ら公益を図る目的のものでないことが明白であつて、かつ、被害者が重大にして著しく回復困難な損害を被る虞があるときは、当該表現行為はその価値が被害者の名誉に劣後することが明らかであるうえ、有効適切な救済方法としての差止めの必要性も肯定されるから、かかる実体
的要件を具備するときに限つて、例外的に事前差止めが許されるものというべき
つまり、「悪く書くつもりがあったかどうか」は、差止めが認められるための要件の一つである「専ら公益を図る目的のものでないことが明白であるか」が認められるかに関係するのです。
また、差止め訴訟以外でも、どのような意図・動機で表現行為をしたかは、名誉毀損による慰謝料額の算定に影響します。