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「名誉毀損」慰謝料の決定方法・相場
- 2016/1/12
- よくある質問 上級編
新聞、テレビ、週刊誌等のマスメディアによる名誉毀損事件とそれ以外の名誉毀損事件(以下「非マスメディア型事件」といいます。)を分けて考えた方が良いでしょう。
平成19年の文献(判例タイムズ1223号66頁)によれば、非マスメディア型事件では、裁判例の慰謝料額の最高は500万円であり、100万円未満が多数あり、50万円未満の事件も少なくないとされています。
被害を受けた人の気持ちからすれば、なぜ慰謝料額がこのように低いのか、どのような基準で慰謝料額を算定しているのか疑問だと思います。
しかし、慰謝料は裁判所がその裁量によって算定するもので、考慮する事情の制限はないですし、その額を認定するに至った根拠を示す必要もないとされ、弁護士としても慰謝料額の見通しを断定するのが難しいのです。
ただ、過去の裁判例からどのような要素が重視されるのか、どのような事例でどの程度の慰謝料が認められているかを見ることで、ある程度の見通しをつけることができます。
重要な事情としては次の7点があります。
①表現行為の方法及び結果としての表現の流布の範囲
例えば、配られたビラの枚数、ホームページの掲載の有無、話を聞いた人数などが考慮されます。もちろん枚数や人数が多ければ多いほど、以外としての社会的評価の程度は大きくなり、慰謝料額は高くなります。誹謗中傷が流布された範囲が広ければ広いだけ慰謝料額の加算事情となります。
新聞や雑誌の場合は発行部数で判断できますし、ビラの場合も配布枚数を確認しやすいかもしれませんが、ネットの場合、どの程度のアクセスがあったのかを明らかにするのに工夫が必要です。
②表現行為の悪質性
表現内容もまた表現の流布の範囲と同じように、被害の程度を考えたときには重要な要素となります。
③名誉棄損行為によって原告が被った社会生活上の不利益の程度
加算事情の例:10日間の自宅謹慎、信用低下、仕事の依頼減少、収入減少、事実調査に時間を要したこと、失望者がいたこと、ストレス、不安、不眠、自律神経症状があらわれ心身共に苦悩したこと
減算事情の例:現実の業務への妨害・損害がないこと
抽象的に社会的評価が低下したと主張したり、心情を述べるだけでなく、どれだけ具体的な被害があるのかないのかということがポイントです。
④被告の動機・目的の悪質性の程度
加算事情の例:受験妨害の意図で合理的な理由もなく虚偽の性的悪評を流布、嫌がらせ目的
減算事情の例:事実関係調査目的、市議会議員の活動の一環として公益目的であること、突発的単発的になされたこと
公益的な目的で表現行為がなされている場合には、名誉毀損が成立しても慰謝料額が低く見積もられることになります。重要な憲法上の権利である表現の自由も尊重するためです。
⑤当事者間の従前の関係・当該表現行為に至る経緯
加算事情の例:受験妨害の意図、好意を受け入れなかったことに対する復讐
減算事情の例:双方が相手方に対し誹謗中傷を繰り替えしていた中での発言
非マスメディア型事件では、この点が問題となります。従前から関係が近く、お互いに誹謗中傷を繰り返してしまう事案も少なくありません。
⑥名誉棄損行為後の被告の対応、原告の救済の程度等
加算事情の例:表現行為を中止するよう求めていたにも関わらず無視して名誉毀損を継続、削除要請を受けたにも関わらず無視した
減算事情の例:被告がすでに刑事処分を受けていること
刑事処分を受けたからといって、被害者の損害回復と関係ないがないように思えますが、慰謝料の算定にあたっては考慮される事情となりえます。
⑦被害者の過失
減算事情の例:原告の行為が名誉毀損の誘引となったこと
表現行為の方法、内容の悪質性の程度、動機・目的の悪質性の程度、被害者が被った社会生活上の不利益などが考慮されることは、マスメディア型事件と大きく変わりません。当事者間に特定の人間関係があることが多い非マスメディア型事件の特徴としては、当事者の従前の関係、表現行為に至る経緯が考慮されることが多いようです。
マスメディア型事件と異なり、流布の範囲が狭い場合が少なくないことから、10万から30万円程度の少額の慰謝料しか認められない事例も少なくありません。
最近のインターネット上の名誉毀損の場合、狭い人間関係からネット上に誹謗中傷の書込みがなされるという点で従前の非マスメディア型と同様ですが、流布の範囲が広い点でマスメディア型としての側面も持っており、両方の側面を持っていると言えます。