スラップ訴訟が不当訴訟であるとして慰謝料が認められた事件
- 2015/10/30
- 名誉毀損
スラップ訴訟とは
スラップ訴訟とは,大企業や政府などの優越者が、公の場での発言や政府・自治体などの対応を求めて行動を起こした、権力を持たない、比較弱者や個人・市民・被害者に対して、恫喝・発言封じなどの威圧的、恫喝的あるいは報復的な目的で起こす訴訟だと言われています。
こうした訴訟は,社会的に弱い立場にいる人の自由な表現活動を委縮させるので,非常に問題が多いのですが,それが不当訴訟にあたるとして,スラップ訴訟を提起した会社に対し慰謝料の支払を命じる事例は非常に珍しいです。
そもそも,スラップ訴訟に限らず,不当訴訟として損害倍責任を負わされる裁判例は非常に少なく,公刊されている裁判例では数件しかなく,請求を認容した最高裁判例もありません。
訴訟で負けた場合に,すぐ不当訴訟であるとして損害賠償責任を負わせられるのでは,裁判を受ける権利の保障を受けられなくなってしまうからです。
スラップ訴訟に関する画期的判決
そのため,今回,毎日新聞で報道された長野地裁伊那支部平成27年10月23日判決は,画期的判決と言えます。訴訟提起すること自体に相当問題があった事例であったと思われます。
長野県伊那市の大規模太陽光発電所の建設計画が反対運動で縮小を余儀なくされたとして、設置会社が住民男性(66)に6000万円の損害賠償を求めた訴訟の判決が28日、長野地裁伊那支部であり、望月千広裁判官は請求を棄却した。さらに望月裁判官は、男性が「反対意見を抑え込むための提訴だ」として同社に慰謝料200万円を求めた反訴について、「会社側の提訴は裁判制度に照らして著しく正当性を欠く」と判断し、同社に慰謝料50万円の支払いを命じた。
(毎日新聞 2015年10月29日 09時40分(最終更新 10月29日 13時46分))
参考までに不当訴訟に関連する重要な裁判例を以下に紹介します。
不当訴訟とされる判断基準を示した最高裁判決 最高裁昭和63年1月26日判決
最高裁が示した不当訴訟が認められるか否かの基準は次のとおりです。
「訴えの提起は、提訴者が当該訴訟において主張した権利又は法律関係が事実的、法律的根拠を欠くものである上、同人がそのことを知りながら又は通常人であれば容易にそのことを知り得たのにあえて提起したなど、裁判制度の趣旨目的に照らして著しく相当性を欠く場合に限り、相手方に対する違法な行為となる。」
不当訴訟を否定した原審を差し戻した最高裁判例
・最高裁平成22年7月9日判決最高裁判所裁判集民事234号207頁,裁判所時報1511号234頁,判例タイムズ1332号47頁,判例時報2091号47頁
(本訴の提起が不法行為に当たることを理由とする反訴について,本訴に係る請求原因事実と相反することとなる本訴原告自らが行った事実を積極的に認定しながら,本訴の提起に係る不法行為の成立を否定した原審の判断に違法があるとされた事例)
不当訴訟を肯定した事例
・広島高等裁判所平成25年12月24日判決・判例時報2214号52頁
(近畿機械工業(元従業員ら・横領)事件)
・東京地裁平成18年3月28日判決
・東京高裁平成18年11月8日判決(上記の控訴審)
(存在しないセクハラ行為について、これを請求原因として訴訟提起した行為が不法行為にあたるとされた事例)
不当訴訟を否定した事例
・最高裁平成21年10月23日判決 最高裁判所裁判集民事232号127頁,判例タイムズ1313号115頁,判例時報2063号6頁
・東京地裁平成25年6月28日判決(裁判所HP)
・東京地裁平成26年9月30日判決・判例タイムズ1414号349頁
(訴訟信託として無効な債権譲渡に基づく訴訟提起が不法行為に該当しないとされた事例